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研究目的・概要

本研究は山岳信仰(修験道)に関する立体造形作品のデータ化を通して、制作者の造形的特徴を抽出し、欠損部分を補った全体像を再現するものである。研究対象は英彦山・梵字ヶ岩の磨崖石仏である。英彦山修験道は口伝による文化伝承を行い、伝承内容を文献に残すことは禁じられていた。明治5年の修験道禁止令以後、口伝は途絶えている。そこで残存する造形美術品から伝承内容の輪郭を浮かび上がらせたい。本研究は作り手の制作意図がどのような立体的特徴として表出するのか、という問題を含めて考察するものであり、今後の立体芸術作品の分析と評価に寄与すると考えられる。

 

① 古代、外来の宗教はまず九州に上陸し、そこで山岳信仰と融合したと考えられる。英彦山は九州の福岡県にあり、自然環境と人間、アジア諸国との文化的交流の痕跡が残る興味深い場である。しかし明治期の弾圧が厳しく、口伝を中心とした文化伝承が途絶えているのが現状である。申請者が勤務する九州大学芸術工学研究院は英彦山と同じ福岡県にある。ここは芸術と工学の双方から問題解決にアプローチできる研究者を輩出している。地理的にも学際的な意味においても、文献資料の乏しい英彦山修験道の調査に適した研究機関である。修験道研究者としては文学博士の宮家準が著名であるが、英彦山修験については文学博士・長野覚の研究が秀逸である。長野は英彦山山伏の末裔である。申請者も英彦山の僧侶系山伏であった知足院家の末裔であり、廃仏毀釈を境に伝統が途切れたことに対して深い問題意識を抱えている。

研究代表者知足美加子は彫刻制作が専門であり、造形物から作り手の手業と制作意図を推測することができる。しかしその実証を行うことは難しく、工学的知識が必要となる。これまでに失明後の彫刻家の作品と先天的視覚障害者の作品を比較することで制作意図を探る研究方法を試みた。(知足美加子、吉永幸靖「フランシスコ・スニガの彫刻観と触知の関係」九州大学芸術工学研究院紀要)ここでは、彫刻の画像のシルエットをグラフ曲線と捉え、二乗平均平方根の数値や曲線トップの位置の比較から近似性を探った。この研究が数値を用いた造形的特徴の抽出について考察する契機となった。

②英彦山山中に梵字ヶ岩に菩薩形の立像である磨崖仏(1237年)が存在する。磨崖石仏のある岩壁に向かった右半分が崩落しており、昭和になって谷底で崩落した菩薩像が発見された。東洋美術史家・大西修也によって梵字ヶ岩の磨崖石仏との関連性が示唆されているが、実証は行われていない。崩落した石仏と現存の磨崖石仏の関連を示すことができれば、像名・像主・願文・制作年時の全てを有する全国でも唯一の磨崖石仏である可能性が高い。研究期間内に、この2体の菩薩像の計測を行い、画像解析と3次元データによる形状比較を行い、崩落前の全体像をシミュレーションし再現する。

③今回の調査対象は歴史的な美術品であるが、本研究の試みによって立体作品全体の新しい評価軸を確立できるかもしれない。これまで立体作品の形状的比較において「影響」を受けていると表記されていたものが数値的にも実証され、制作意図を加味した形の再現等に応用できると考えられる。

 

[研究期間]2013年4月〜

[メンバー]
研究代表者:知足美加子(九州大学 准教授)
連携研究者:竹之内和樹(九州大学 准教授)吉永幸靖(九州大学 准教授)
協力研究者:石井達郎(九州大学 助教)
研究支援者:鶴巻史子(九州大学 博士課程)坂井健一郎(九州大学 修士課程)丸山智央(九州大学 学部)森内祥生(九州大学 学部)
OB・OG:池浦和彦(九州大学 修士課程)冨田勇人(九州大学 修士課程)

      

集合写真

[連絡先]
hikosan(at)design.kyushu-u.ac.jp (at)を@に変えて送信ください。